筋膜リリース(Myofasial Release)とは何ですか?
FIND 2005年5月号No159
<そぼくな疑問コーナーに掲載されました>
回答者 筋膜リリース研究所 朝比奈 幹太
*2005年に掲載された、手技療法としての筋膜リリースの説明です。
筋膜リリースとは、筋膜の縮み、ねじれを持続的なやさしいストレッチでリリースする手技療法です。アメリカでは、理学療法やオステオパシーの分野で行われています。Myoとは「筋」、Fascialとは「筋膜」、Releaseとは「解放」を意味します。筋・筋膜リリースと直訳されている場合もあります。
ひとことで筋膜リリースと言ってみても、アメリカの治療者の間でも人体に対するアプローチの仕方に若干の違いがあるようです。ソフトな圧のアプローチの仕方から、しっかりとした強い圧をかけるアプローチの仕方まで行われています。
どちらのやり方が正しいということではなく、その基礎になっている筋膜理論は西洋医学をベースにして共通しており、施術を行う治療者の経験と個性によりアプローチの仕方が違ってくるようです。
筋膜とは?
筋膜とは、頭の天辺から足の先までを覆っているネット状の線維のことを言います。皮膚が体の外側を覆っているように、筋膜は体の内側の骨や筋肉、内臓、神経、血管などを覆い支えています。
そして、筋膜は体の表層(皮下筋膜)から深層(腱、骨膜)まで連続して繋がりながら、立体的なクモの巣のように身体のすみずみまでをネットワークとして張りめぐらされています。
簡単な例で言いますとグレープフルーツの内側を考えてみてください。ナイフで半分に切ると薄い皮で果肉どうしが分かれているのが見えると思います。それと同じように人間の筋肉も筋膜で包まれているということです。料理をする前の生肉を見ますと、透明な薄い粘膜が肉の周りを包んでいるのを見ることがあります。それが鳥や豚などの動物の筋膜です。
アメリカでは、競走馬やペットの犬などの治療も筋膜リリースで行われています。
筋膜の性質について
筋膜は、コラーゲン線維と弾性線維が合わさって、ひとつのユニットとして働きます。2つの線維は、お互いの性質によって助け合って共存しております。コラーゲン線維は柔軟で丈夫だけどほとんど伸びません。弾性線維は、線維というよりも均一なタンパク質からなっていて収縮性があり引き伸ばすことができます。
コラーゲン線維は、介在する弾性線維の収縮力によって普段は縮められています。組織が引き伸ばされると、コラーゲン線維が伸びきった状態に達し、持ち前の引っ張り強さを発揮するので、組織はそれ以上引き伸ばされないように働きます。
上記のような性質を持つ筋膜は、伸縮性のある線維だということがわかると思います。次に筋膜の可動性について見ていきましょう。
筋膜の短縮について
筋膜の短縮は収縮力のないコラーゲン線維の癒着によって起こります。その原因は、姿勢の問題、精神的、ケガ、手術などによって起こる身体の歪み、ねじれが長時間かかることによるストレスであると言われています。
身体の歪みによって起こるコラーゲン線維の癒着は筋膜の短縮となり、筋膜の可動性を低下させ、関節運動に制限も起こすことになっていきます。
その結果、体に痛みを感じることになり筋緊張を増加させて、また身体に歪みを作ることになっていきます。このサイクルを中断させるために、筋膜リリースは筋膜が短縮して可動制限が起きている部位に対して行われます。
筋膜の癒着による可動制限
筋膜の短縮は、隣り合うコラーゲン線維の癒着によって起こります。この癒着のことを交差結合と呼びます。
<コラーゲン線維の伸展図>
交差結合が発生して伸展が制限された筋膜は、その緊張を筋膜のネットワークを通して体全体に及ぼします。
たとば、最初の制限による痛みが腰部に起こったとします。その筋膜の可動制限による緊張が頚部に伝わり、二次障害が頚部の痛みとなって現れることになります。
筋膜リリースのメカニズム
短縮した筋膜を伸張して制限を解放(リリース)するには、90秒以上の時間を必要とします。効果を出すには、2~5分間持続して伸張する場合もあります。
なぜ、そのように時間がかかるかといいますと、2つの線維のうち弾性線維は伸縮性がありすぐに伸びてくるのですが、コラーゲン線維が伸びるのに少し時間がかかります。すぐに手を放してしまうとコラーゲン線維が伸びる前に、弾性線維がゴムのように元の長さに戻ってしまいます。
時間をかけた伸張により、交差結合が発生したコラーゲン線維周辺の体液循環が促進され、線維の密度が変わり短縮した線維の損傷が改善されます。
歪みからの解放
筋膜リリースの一番の特徴は、体全体をひとつの立体的な膜組織システムとして捉えることです。その考え方によって、下肢を牽引することで腰部の緊張や頚部の痛みなどを軽減することが可能になります。
人間の体は、バラバラのパーツが重なりあったものではなく、ひとつひとつのパーツが筋膜によって繋ぎ合わさり全体が構成されています。その構造によって、下肢の牽引が離れた頚部の制限までも変化させることになるのです。
筋膜リリースを患者に行う場合まず、患者の姿勢を全体的に見て歪みやねじれなどを観察します。アメリカの施術所では、写真撮影によって姿勢分析を行っているところもあります。そうすることによって施術者と患者の双方が治療を客観的に判断することが可能になるためです。
まとめ
筋膜リリースは、筋膜の短縮やねじれによる痛みや可動制限に対して行う手技療法です。アメリカでは、体全体を整えるのに軟部組織モビライゼーションや頭蓋仙骨治療などと組み合わせて治療が行われております。
一つのやり方ですべての問題に対処するのではなく、問題を抱えている患者さんのニーズに合わせて治療方法を使い分けてみてはいかがでしょうか。
参考文献
1.Barnes JF : Myofascial Rrelrase. Jone F. Barnes,P.T. and Rehabilitation Services, Inc, Pennsylvania,1990
2.奈良 勲 黒澤和生 竹井仁編集 「系統別・治療手技の展開」協同医書出版社 1999